「博物館法の一部を改正する法律」(令和4年法律第24号)に対する見解 -公立博物館制度の後退を許さず住民の学習・文化芸術活動、学芸活動の自由と多様性を保障する博物館の自由を求めて-

PDFはコチラ

「博物館法の一部を改正する法律」(令和4年法律第24号)に対する見解
-公立博物館制度の後退を許さず住民の学習・文化芸術活動、学芸活動の自由と多様性を保障する博物館の自由を求めて-

2022年5月13日
社会教育推進全国協議会常任委員会

 2021年12月20日の文化審議会答申「博物館法制度の今後の在り方について」を踏まえ、2022年4月8日、第208回国会において「博物館法の一部を改正する法律」(以下、改正博物館法)が成立し、同月15日に公布されました。これに先立ち私たちは、2021年12月22日に「文化審議会答申『博物館法制度の今後の在り方について』に対するアピール」を表明し、社会教育法と文化芸術基本法の関連を「整備」することで「博物館が『社会教育のための機関』であることを明確にすること」とともに、「新しい登録制度の内容が具体的に明らかにされないまま、今回の博物館法改正が実施されてしまわないこと」を求めてきました。
 改正博物館法の大きな変更は、博物館法の目的に「社会教育法の精神」に加え「文化芸術基本法の精神」に基づくことが規定された点にあります。この点に関し、2022年3月23日の衆議院文部科学委員会では、文部科学大臣答弁において、改正博物館法第1条「目的」が、旧第1条より継続して規定される「社会教育法の精神に基き」成立していることを「受けて」、「社会教育法の精神」とともに「文化芸術基本法の精神」が追加されていることが確認されました。そして審議では、博物館が「学習権」を保障する「社会教育施設」であることがあらためて確認された上で、人びとのいわゆる「文化権」を保障する「文化施設」としてのあり方が提起されています。他方で、文化芸術基本法では「観光、まちづくり」施策等との「有機的連携」を規定しています。しかし審議の質疑で示されたように、地方公共団体等が「文化観光」の論理を安易に活かす地域の開発施策には慎重であるべきで、いわゆる「稼ぐ文化」政策の動向と博物館活動との関連やその影響については、引き続き注視されるべき問題です。
 私たちはこうした「文化芸術基本法の精神」の論理構造を明確にし、これまで以上に住民の学習・文化芸術活動、学芸活動の自由と多様性を保障する博物館のあり方を育んでいく必要があります。そのため私たちは、改正博物館法に潜在する下記2点の問題構造を克服し、住民の自治に基づき学習・学芸活動の自由と権利を保障する「公立博物館」の理念を確実に継承していく必要があること、そして今年度に設計される新しい「登録」制度の内容においても、登録の有無にかかわらず博物館の自由と多様性が十全に保障され、住民自身が社会教育施設である博物館を自治的かつ民主的に創造していくことのできるより良いあり方になるものとして改善されていく必要があることを表明します。

1、「公立博物館」は、引き続き「地方公共団体の教育委員会に属すること」が基本であること
 改正博物館法は、旧第2条「定義」の改正により、博物館法に基づく博物館の範囲が「拡大」され、「私立博物館」に、株式会社立博物館等を含む各種「法人」が加わりました。さらに大阪市の行政改革に伴い、2013年改正地方独立行政法人法施行令により制度化した、非公務員からなる一般地方独立行政法人立博物館を「公立博物館」と位置づけました。これにより、第二次世界大戦の反省を踏まえて成立した戦後教育改革の要諦と言える旧第3章「公立博物館」に明文化された幾つかの条文、すなわち博物館における市民参画の課題として議論が蓄積されている「地方公共団体の条例で定め」ることを謳った旧第18条「設置」と、その所管が「地方公共団体の教育委員会」であることを定めていた旧第19条「所管」を全部削除しています。この制度変更は、住民の学習と自治に基づき設置される公立博物館制度のあり方を一層不明確にさせています。さらに、住民の実際生活に即した学習・文化芸術活動、学芸活動の権利を保障する地方公共団体の教育委員会による条件整備義務を一層選択的なものへ転換し、教育の公共性を曖昧にしかねません。公立博物館制度の運用にあたっては、4月15日の文化庁次長通知に示されたよう、「引き続き、公立博物館の所管は当該博物館を設置する地方公共団体の教育委員会に属すること」が、博物館法の立法理念である公立博物館制度の根幹に位置していることを明確に示し、設置運営されていくことが重要です。

2、新しい「登録」制度は、「博物館の社会教育施設としての役割を尊重」する観点から、住民参加等の制度を確立し、民主的運用に努めること
 改正博物館法第2章「登録」では、改正第13条「登録の審査」第1項において、1951年博物館法制定当初より旧第12条「登録要件の審査」各号で示してきた登録博物館を創るための4要件(①必要な資料があること、②学芸員その他の職員を有すること、③必要な建物及び土地があること、④年間開館日数150日以上。但し③は「施設及び設備」に改定)に加え、新たに第三号で「資料の収集、保管及び展示並びに博物館資料に関する調査研究を行う体制」という博物館活動と社会教育実践そのものを審査する定性的評価軸が加わりました。そして第2項として、審査においては都道府県・指定都市教育委員会が「文部科学省令で定める基準を参酌するもの」としました。また「審査主体」となった都道府県・指定都市教育委員会は、登録審査に際し、第3項で定める「博物館に関し学識経験を有する者の意見」を聴くとともに、登録申請する博物館は、先の「省令で定める基準を参酌」して審査主体が定めた基準と「適合」させる必要が出てきます。この制度変更は、これまで法が明示してきた博物館の定義要件に、国が「省令」として基準を重ねるもので、教育委員会が国定基準を「参酌」すること自体も地方分権と矛盾したものです。
 そして、登録博物館の運営や活動内容に対する審査主体の各種権限を定めた改正第16条「都道府県の教育委員会への定期報告」、改正第17条「報告又は資料の提出」及び改正第18条「勧告及び命令」並びに改正第19条「登録の取消し」では、審査主体は登録博物館に「運営の状況に関し報告又は資料の提出を求める」ことが可能となり、登録博物館には審査主体へ「定期報告」が義務づけられました。その際、審査主体が申請条件や定性的評価軸の基準に「該当しなくなったと認めるとき」は、「博物館に関し学識経験を有する者の意見」を聴いて、登録博物館に「必要な措置をとるべきこと」の「勧告」と「命令」が可能となり、登録博物館が「登録」に係る諸規定に反した際は、「博物館に関し学識経験を有する者の意見」を聴いて、審査主体の「登録の取消し」と「インターネットの利用その他の方法」による「公表」等を義務化しています。旧博物館法自体を改定することによる「設置主体の多様化」の保障は、そのあり方の集権的再編であるがゆえに、法の提案理由である多種多様な博物館それぞれの個性に即した「適正な運営を確保する」条件を、逆に国や審査主体自身が規制し後退させかねない側面を未だ合わせもっています。
 このことに関し、国会審議では、衆議院と参議院の附帯決議「二」において「登録の審査に当たっては、博物館の社会教育施設としての役割を尊重」することが求められています。新しい登録制度の審査においても、博物館-とりわけ公立博物館-が社会教育施設であることを尊重する観点から、当該地域の住民を主体としたさまざまな立場の「博物館に関し学識経験を有する者」の参加を保障し、当該博物館の学芸員及び社会教育における学習の成果を活かして当該博物館活動に取り組む者を交えた協議体の仕組みを設計する等で、現場の学習と自治に基づく民主的な運営と活動の自由を尊重することが不可欠です。