「日本学術会議法の一部を改正する法律案」(2023年3月国会提出案)の 撤回を求めます

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「日本学術会議法の一部を改正する法律案」(2023 年 3 月国会提出案)の撤回を求めます

 

1 日本学術会議の使命と役割

 日本学術会議は、1948 年日本学術会議法によって「学術が戦前の轍を踏まず学問の自由と科学の独立を基礎に政府と社会に科学的助言を行う機関」として設立されました。(2023 年 2 月 14 日、元会長職 5 人、吉川弘之、黒川清、広渡清吾、大西隆、山極寿一による声明文より)

2 日本学術会議への政権側からの不当な圧力

 2015 年に、安倍内閣は、内閣法制局長官をすげ替えて、それまでの「専守防衛」論を廃棄して「集団的自衛権」の閣議承認を行い、その後の安保法改定を機に、日本の戦後システムの根本的改編を急いできました。
 とくに、防衛装備庁が公募による「安全保障技術研究推進制度」(2015 年)を開始し、大学や研究機関の軍事研究が容認されようとしてきました。日本学術会議は、2017 年に「軍事的安全保障に関する声明」で「研究の方向性や秘密の保持をめぐって、政府による研究者の活動への介入が強まる懸念」を表明したのは当然でした。
 それに対して、かねてから学術会議の存在に不快感を抱いていた政権与党は、驚くべき暴挙に出ました。2020 年 10 月の菅義偉首相による 6 人の会員の任命拒否問題は、その象徴でした。何らの理由も示さずの任命拒否でした。当然ながら、1000 を越える学協会や多様な団体が、抗議と反対を表明してきました。社全協も「日本学術会議第 25 期新規会員の任命拒否についての声明」(2020 年 10 月 11 日)を発出し、拒否された 6 人を任命するよう求めました。その後、政権に就いた岸田文雄首相は、任命拒否を撤回せず、さらにあらたな攻撃を加えました。とりわけ、2022 年のロシアによるウクライナ侵攻を機に、各国が軍備増強を表明してきたことに呼応するかのように、軍拡予算を組み、安保 3 文書の改訂を行い、「敵基地攻撃能力」保持を表明してきました。そして、あらたに、日本学術会議の制度改変をもくろみ、2023年の国会に法案を提出しようとしているのです。

3  政府の学術会議改革の法案

 内閣府は、2022 年 12 月 6 日及び 21 日に「日本学術会議の在り方についての方針」「具体化検討案」を提起しました。緊急事態と考えた学術会議は、同年 12 月 8 日及び 21 日に臨時総会を開催しました。12月 8 日の総会では、内閣府方針について説明を受け、会員との質疑応答を行いました。12 月 21 日の第186 回総会において、同内閣府室長より「日本学術会議の在り方について」(具体化検討案)の説明がなされました。それに対して、日本学術会議声明「内閣府『日本学術会議の在り方についての方針』(令和4 年 12 月 6 日)についての再考を求めます」が出されました。加えて、12 月 27 日には、日本学術会議会長梶田隆章は、「内閣府『日本学術会議の在り方についての方針』に関する懸念事項(第 186 回総会の声明説明)を表明しました。さらに、歴代 5 会長による「岸田文雄首相に対し日本学術会議の独立性及び自主性の尊重と擁護を求める声明」(前出の元会長職 5 人の声明)では①「内閣府案は、政府と科学者が」「問題意識や時間軸を共有」して「協働することを求めているが」、それは「Scientist in Government の仕事」であり、それとは異なり、「科学者コミュニティ」の「政府への科学的助言」は、「ときどきの政府の利害から学術的に独立に自主的におこなわれるべきものである」としています。②また、「コ・オプテーション制は」「先進諸国のナショナルアカデミーに普遍的な選考方法」であり「国際的に相互の信認の根拠」であり「内閣府案はこれを毀損する」としています。③「政権と、科学者コミュニティとの、政府と日本学術会議とのあるべき関係について」は、「一部の科学者や政党プロジェクトのような狭い範囲でなく、より長期的視野の公平な検討の仕組みの下での議論が行われ、科学者を含めた社会のなかでの議論、そして与野党を超えた国会での議論が必要であることを表明する」としました。2 月 19 日には、ノーベル賞及びフィールズ賞受賞者 8 名(天野浩、大隅良典、小林誠、白川英樹、鈴木章、野依良治、本庶佑、森重文)による「日本学術会議改正につき熟慮を求めます」の声明が出されました。2 月 22 日には、学術会議は、内閣府からの「検討状況」説明についての懸念事項」を十点に渡り指摘したうえで、むすびに「現在のようなかたちで法改正が強行されるならば、それは日本の学術の「終わりの始まり」となりかねないことを強く憂慮する」としています。すでに 300 を超える学協会、民間団体の抗議や反対が表明され、国際的ジャーナルの“Science”にも事態を憂慮する記事が掲載されています。

4  2023 年 3 月提出予定の「法案要旨」

 内閣府は、次の法案要旨を示しています。
 日本学術会議が、①適正かつ透明性の高い運営を確保するとともに、近年の我が国及び国際社会の課題により的確に対応した活動を推進するため、②6 年間の事業の運営に関する方針の作成、③運営の状況についての自己評価の実施、④会員の候補者の推薦等に関する選考諮問委員会(仮称)の意見の聴取等について定める等の措置を講ずる」としています。
 これらは、6名の任命拒否問題には一言もふれずに、制度改変を表明しています。
 そして、学術会議が懸念する「選考諮問委員会(仮称)」なるものによって、学問の自由、自主性に対する干渉となるのは、必至です。

5  私たちは、次の見解を表明し、法案の撤回を求めます。

① 違法な任命拒否の撤回をすべきです。今回新たに学術会議の在り方を法改正で進めるのは強権的であり、民主主義に反するものと言えます。
② 法改正を必要とする理由(立法事実)が不在であり、会員選考のルールや過程への第三者委員会の関与は学術会議の独立性への侵犯と介入をもたらし、学術会議を死に至らせるものです。
③ 学問の固有な論理を無視して「政府等と問題意識や時間軸等」を迫るのは、政府によるガバナンスの強化・外部介入に道を開くものです。これは、「科学技術」「学術倫理」「知的基盤」たる学術コミュニティを変質させ、軍事目的たる科学技術に、科学者を動員させるものです。
④ 日本学術会議、学協会、学術コミュニティとの丁寧な意見交換、国民との対話を欠く拙速な改正法案の準備に危惧と反対の念を抱かざるを得ません。

 社会教育推進全国協議会は、この法案について、広く、国民の知る自由、学問の自由にかかわる問題を含んでおり、看過できないものと考えます。法案の撤回を強く求めます。

 

2023 年 3 月 29 日        

社会教育推進全国協議会常任委員会